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  • 大本営発表見送る
    「原爆」めぐり内部対立

    (六日夜)
 東京の大本営や宮内庁にも六日、広島市への新型爆弾投下についでの断片的な情報が届いた。詳しい状況をつかめなかったうえ、国民への公表の仕方をめぐって政府内部で意見が対立。公式発表は見送られ、調査団の派遣を準備するのがやっとだった。

 原爆投下の第一報は、呉鎮守府から午前八時半に大本営海軍部に伝えられたとする情報や、第一総軍が船舶司令部を通じて同十時すぎに大本営へ伝えたとする情報などが錯綜している。

 陸軍省兵務課長には「一機侵入、広島全滅」との情報も入り、「そんなことがあるはずがない」として、調査を指示した。

 宮内庁に連絡が入ったのは同日午後七時ごろ。宿直当番だった侍従武官の尾形健一大佐によると、海軍省から、呉鎮守府からの情報として電話連絡があった。

 「午前八時、広島市にB29二、三機が来襲、特殊爆弾攻撃を受け、市街大半が倒壊した。軍関係者の死傷や倒壊が相次ぎ、重症者が続出。第二総軍への連絡によると、大爆発に引き続き、大火災が起こって午後二時現在なお延焼中」と報告。さらに「このような状況から相当強烈な新爆弾を使用したことは間違いない」としている。

 軍などが断片的な情報をもとに検討を重ねた結果、原子爆弾ではないかという見方が強まり、政府内部に動揺が広がった。

 原爆については、陸、海軍が研究を進めていたが、まだ実戦では使用できる段階ではないというのが軍の一般的な見方。

 前日の五日、広島市宇品にあった陸軍船舶練習部の教養講座で、広島文理大の三村剛昂教授(理論物理学)は「原子爆弾は偉大な性能のものですが、今次戦争には到底間に合いません」と述べるなど、研究者の間でも研究段階との見方が支配的だった。

 このため、国民に対する発表方法について、大本営の内部で意見が分かれた。情報局は「対外的には非人道的武器の徹底的宣伝を開始し、対内的には原爆であることを発表して国民に新たな覚悟を要請した方がいい」という考えだったが、軍部は「国民の心理に強い衝撃を与える」と反対した。

 外務省は情報局の方針に賛成したが、内務省は軍部の意見に賛成した。その結果、公式調査による事実確認までは「原子爆弾」という言葉を公式には使わないことを決めるにとどまった。
 
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